いきもの観察入門~哺乳類編~

哺乳類のフィールドサインを観察してみよう

皆さんは、野生の哺乳類に出会ったことはありますか。警戒心が強く、夜行性のものも多いため、直接姿を見る機会は多くありません。しかし、足跡やフンなどの「フィールドサイン(生活の痕跡)」に注目すると、動物たちが確かにその場所で暮らしていることがわかります。

ここでは、哺乳類のフィールドサインの探し方や観察のポイントを紹介します。
動物たちが地面や木々に残したメッセージを読み解く、「自然の謎解き」に挑戦してみましょう。

観察道具を準備しよう

①スケール(ものさし、メジャー)
足跡やフンの「大きさ」は、動物の種類を見分ける重要な手がかりです。痕跡の横に置いて写真を撮ると、正確なサイズが記録でき、後で図鑑と見比べる際に役立ちます。

②ルーペ
肉眼では見えにくい細かい部分を観察するために使います。フンに含まれているもの(種子や昆虫の殻、動物の毛など)を拡大して見ることで、多くの情報が得られます。

③フィールドサイン図鑑
足跡、フン、食痕(食べ跡)、巣穴などの「痕跡」に特化した図鑑です。散策中にすぐ確認できるよう、ポケットサイズのものがおすすめです。

③その他(あると便利なもの、上級者向けのもの)

・カメラ・スマートフォン
見つけた痕跡を記録に残します。

・懐中電灯(ライト)
木の洞(うろ)や巣穴の中、薄暗い場所を観察する際に役立ちます。

・ビニール袋・手袋
フンなどを観察する際に使用します。感染症予防のため、素手で触れないようにしましょう。

観察時期に注意しよう

哺乳類のフィールドサイン観察は、季節によって探しやすさや安全性が大きく変わります。

①春~夏

タヌキの親子

タヌキの親子

多くの動物が出産・子育てを迎える大切な時期です。巣穴や子どもの姿を見つけても、決して近づかず、静かにその場を離れましょう。

夏にかけて植物が生い茂り、地面の痕跡は見つけにくくなります。また、マダニやハチ、ヘビなどの危険生物、熱中症への注意も必要です。観察は整備された遊歩道にとどめ、藪には入らないようにしましょう。

②秋~

アライグマの足跡

ぬかるみに残る足跡

秋は、動物たちが冬に備えて活発に行動する季節です。フィールドサインだけでなく、動物そのものに出会う可能性も高まりますが、大型哺乳類であるイノシシとの遭遇には注意が必要です。

冬は草木が枯れて見通しが良くなり、巣穴やけもの道、足跡が見つけやすくなります。雨上がりや霜が降りた後は足跡がくっきり残るため、フィールドサイン観察に最適な季節です。

観察場所を選ぼう

哺乳類は、人が暮らす街中から深い山奥まで、環境に合わせて棲み分けています。それぞれの場所で、出会える動物や痕跡の特徴が異なります。

①市街地

イタチの写真意外かもしれませんが、市街地にも哺乳類は暮らしています。公園の花壇、側溝、用水路の周辺などを注意深く見てみましょう。

【フィールドサインが観察できる哺乳類の例】
タヌキ、アライグマ(特定外来生物)、イタチ など

②里山

里山の写真

写真提供:福岡市

雑木林や社寺林といった隠れ場所になる樹林と、小動物や昆虫、農作物を含む植物など豊富なエサが揃っているため、多様なフィールドサインが見つかります。

【フィールドサインが観察できる哺乳類の例】
タヌキ、モグラ、ノウサギ、イノシシ など

③奥山(ステップアップしたい方へ)

奥山の写真

写真提供:福岡市

自然度が高く、人の介入が少ない奥山では、大型の哺乳類も生息しています。足元だけでなく、木の幹や枝、斜面など、視点を変えて探すことが大切です。

【フィールドサインが観察できる哺乳類の例】
イノシシ、ニホンジカ、ニホンザル、テン など

ここに注目してみよう

観察場所が決まったら、さっそくフィールドサインを探しに行きましょう。観察ポイントをおさえて、どの動物がどんな生活をしているのか、推理してみましょう。

①足跡を観察しよう
雨上がりのぬかるみや田んぼの畦(あぜ)、砂地、雪の上などは、足跡を見つけるチャンスです。

・プリント(足の形)

哺乳類の足跡の比較画像指の数や、爪、踵(かかと)、蹄(ひづめ)の跡の有無を確認します。例えば、イヌ科(タヌキなど)は爪の跡が残りますが、ネコ科は爪を隠して歩くため、爪跡が残りません。イタチは踵、イノシシやシカなどは蹄の跡が残るのが特徴です。

・歩行パターン

ウサギの歩行痕の図足跡の配置を見ます。ノウサギは前足と後ろ足の跡が「Y字型」に並びます。

 

②食痕を観察しよう

ウサギとシカの食痕の画像動物が食事をした後に残る痕跡です。ウサギ類は鋭い上下の門歯で嚙み切るため、切り口が直線状になります。一方でシカなどは上あごの門歯がなく、下あごと上歯茎で挟んで引きちぎるため、切り口が直線とならず繊維が残ります。

 

③フンを観察しよう

フンは「何を食べたか」を教えてくれる重要な手がかりです。昆虫の翅(はね)や殻(外骨格)が含まれるもの、毛や羽毛が混じるものなど、内容物にも注目してみましょう。

また、タヌキでは、尾根筋や林道の決まった場所に繰り返しフンをする「溜めフン」という習性が見られます。これは縄張りを示したりエサ場などの情報を共有する役割があるとされています。
※観察する際は、感染症予防のため絶対に素手で触れないでください。

ノウサギの糞の写真

ノウサギの丸フン

イノシシの糞の写真

イノシシの塊状フン

タヌキの溜め糞の写真

タヌキの溜めフン

 

④その他の観察ポイント

その他にも、動物ごとに特徴的なフィールドサインがあります。例えばモグラの仲間は、地中でトンネルを掘る際に不要な土を地表に押し上げ、モグラ塚を残します。カヤネズミはススキやチガヤなどの葉で編んだソフトボール大の巣をつくり子育てを行います。草むらの中に、草が倒れて踏み固められた細い道が続いていれば、それは動物たちが日常的に使っている通り道(けもの道)です。

モグラ塚の写真

モグラ塚

カヤネズミの巣の写真

カヤネズミの巣

けもの道の写真

けもの道

マナーを守って観察しよう

野生動物と適切な距離を保ち、観察者自身の安全を守るために、以下のマナーを守りましょう。

餌付けをしない
野生動物は自然の中で自力でエサをとって生きています。人がエサを与えると、人が持っている食べ物の味を覚え、市街地に出没したり、農作物を荒らしたりする原因(獣害)になります。

動物への影響を最小限に
巣穴を掘り返したり、隠れている動物を無理に追い出したりすることはやめましょう。フィールドサインの観察は、動物たちの生活の場に「お邪魔する」行為です。環境を壊さないよう、静かに見守る姿勢が大切です。

衛生面に注意する
動物のフンや毛には、寄生虫や細菌が付着している可能性があります。観察する際は、絶対に素手では触らず、棒や手袋を使用してください。観察後は必ず石鹸で手を洗いましょう。

安全第一で観察する
イノシシの生息地では、遭遇を避けるため、鈴などで存在を知らせましょう。新しい足跡やフンを見つけた場合は、近くに動物がいる可能性があるため、すぐにその場を離れてください。マダニやハチ、ヘビなどから身を守るため、長袖・長ズボン・帽子を着用し、肌の露出を控えましょう。また、私有地や農耕地、立入禁止区域には入らないでください。

 

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